貨幣数量説
貨幣量の増大がインフレを引き起こすという考えの論理的背景にはフィッシャーの貨幣数量説がある。
MV=PQ
M=マネーサプライ(貨幣量)
V=貨幣の流通速度
P=価格水準
Q=生産量
この方程式が言っていることは財・サービスの取引額は、この取引が終わるまでの金融取引の額と等しいといっているだけである。
ぶっちゃけるとGDP=GDPと言っているだけのトートロジーにすぎない。
そのため、価格理論にするためには、以下の仮定を採用しモデル化する。
そのため、
P=MV/Q(完全雇用水準)
となり、マネーサプライが自然成長率より早く成長するとインフレが発生する。
すなわち、貨幣がヘリコプターからばらまかれ、人々の手に渡り(貨幣数量説者はよくこの言い方をする。貨幣がどのようにわたるか考えなくていいとのこと)その人々は、貨幣を手にしたとき(Vは一定であるので)貯蓄などせずにそのすべてを支出にまわす、完全雇用水準なので需要増加に対して経済システムは価格の引き上げで対応するということだ。貨幣は中立であるので、生産力に影響を与えない。
さて、では現実において10万円給付されてもインフレが発生していないのはなぜか。
まず、マネーサプライは中央銀行にコントロールされていないし、できない。
むしろ中央銀行は一般に経済主体が需要する貨幣量を供給せざるを得ないのである。
信用創造という銀行の貸し出しのオペレーションについて説明をする。
教科書では、準備預金制度があり公開市場で買いオペを行い銀行の準備預金を増加させ、利子率は下がり、刺激され、新しい借り入れに対する需要と、その需要を満たす準備預金の供給が拡大される。
しかし、現実では違うプロセスを経てマネーストックは増加する。
銀行貸付のかなり大きな部分は企業、特に大企業でありこれらの企業は市中銀行と前もって貸付限度額を取り決めている。この点に関していえば、クレジットカードの限度額を前もって取り決めている消費者もそうである。これらの限度額は貸付の裏付けとなる。準備預金を過大に保有するかどうかに依存しない。
企業が借り入れを決定するとき小切手を書くだけで銀行は自動的に新しい貸付を拡大することになるのである。そのとき、銀行は貸付の裏付けとなる準備預金を探し求める必要がある。他の銀行から準備預金を借り入れることとなる。銀行全体で準備預金が不足し始めれば銀行間の貸し出しのレートは上昇する。それを見た中央銀行は準備預金を供給しレートを適正水準に安定させる。
したがって、貨幣供給は借り手全体が借り入れようと決定したのと同じ量だけ増減するだろう。
最も需要な点は利子率の上昇が必ず民間経済活動の縮小、すなわち不況と失業のメカニズムを通じて機能するということである。そいうわけでこの種の政策には限度がある。中央銀行は最後の貸し手として行動し、大量の倒産と銀行破産を防ぐという最も重要な責任がある。たとえ、積極的な金融政策が実行されるとしても貨幣供給に関する真の自由裁量権を中央銀行に与えることはない。
つまり、中央銀行が貨幣供給量を決定し市場が利子率を定めるのではなく、中央銀行が利子率を定め、市場に貨幣供給量を決定させる。
Vも一定であることはない。
また完全雇用であることも現実では稀である。
フルコスト原則
こちらは簡単に言ってしまえば、費用+利潤=価格
ということである。
P=a(1+r)
P =価格
a =平均費用
r = マークアップ率
ポストケインジアン(PK)の価格理論である。
マークアップは様々な市場の条件(独占度)を反映して生産物や産業で異なるが長期的には多かれ少なかれ安定する傾向がある。PKにとって変動の主要な因果的連鎖は、主に慣性的な貨幣価格のもとでの生産量の変化から借入金の需要の変化へと向かう。すなわち、借入金の需要は在庫と資本投資が増加するとき、その資金を賄うために増加し、生産量が減るときに減少する。次に、資金の借り入れ需要の変化は、貨幣の供給量を変化させる。このとき物価の上昇が起きるだろう。
それは費用の上昇、とりわけ賃金費用が上昇することによって起こるだろう。
そして賃金費用の上昇は市場が逼迫し労働者が自らの相対的立場を改善するための一定の交渉力を享受しているときに起こるであろう。このような状況でその因果関係の連鎖は間接的に物価変動から借り入れ需要および貨幣需要の変化へと向かう。
マネタリストの交換方程式ではM貨幣供給量からP物価に向かうことになるが、PKではこの交換方程式にマークアップの関数が乗っかり、また内生的貨幣論からみて貨幣供給は実質産出量の変数に依存するため、実質生産量から貨幣供給量へと向かう。
PKは期待などを通じて機能し貨幣の増加率の縮小が直接にインフレの減速をもたらすような市場メカニズムは存在しないと主張する。
価格が賃金費用にマークアップを付加して設定されるならば労働市場における名目賃金の調整は実質賃金を減らす効果を持たず、失業の減少のための古典派的な状況を生み出さない。
マークアップ価格形成下にある場合、まさに見てきたように物価水準は生産システムの内部において賃金やその他の主要な費用に利潤マージンを付加するという過程によって決定される。このとき貨幣供給は創出された名目取引需要を満たすように調整される。
物価は賃金とともに上昇したり下落したりするが、貨幣供給の変化は主に実質産出量の変化と費用ベースのインフレ圧力の反映であって原因ではない。
物価は賃金とともに上昇したり下落したりするので名目賃金の変化は一般的に実質賃金の変化を引き起こさないであろう。
PKの見解によれば、貨幣賃金をより伸縮的にすることが実質賃金をより伸縮的にすることにはならないであろう。集計的な物価水準の決定要因(実質賃金の分母)を貨幣賃金の決定要因(実質賃金の分子)から切り離す実際的な方法はない。貨幣賃金の変化が実質賃金に影響を及ぼさないのであるから、貨幣賃金の変化は失業を減らすことができないのである。
もし、アフターコロナでインフレが起きるとするなら、産業構造の変化が原因だろう。
が、その兆しはない