風が吹いたら、揺籠が揺れる。枝が折れたら、揺籠が落ちる。坊やも揺籠もみな落ちる。
レイモンド・ブリッグズのベストセラー絵本を、デヴィッド・ボウイ、ロジャー・ウォーターズらが参加し、アニメーション化した不屈の名作。
あらすじ
イギリスの片田舎。年老いたジムとヒルダの夫婦は、子供も独立し、ゆったりとした平穏な年金生活を送っていた。ある日、核戦争が近づいていることを知ったジムは、政府が配ったガイドに従って、核シェルターを準備し始めるが・・・
感想
結論から言うと、二人は死にまする。爆風で吹き飛ぶわけではなく、作ったシェルター(シェルターと言っても部屋の隅にドアを壁がわりに立てかけてクッションを置いただけのかなりしょぼいものだが)のおかげで怪我なく生き残ります。しかし、原爆の恐ろしさはその後にあり、放射能による人体の汚染が夫婦の体を蝕み、衰弱していき、最終的には死ぬわけです。死ぬ姿が直接描写されてるわけではありませんが、あの姿はもう助からないでしょう。
ジムは知識欲があり図書館に通い新聞を読み世界情勢を探り、世界大戦の危惧から戦争が起きた時に備えた政府のパンフレットをもらい、その指示通りに行動します。が、知識があると言っても知性があるわけではないため、大分間違った行動を取り続けるわけです。爆発後に避難しないし、汚染された雨水を飲んだり、放射能の理解がないための行動ですが、当時の人々の理解度があの程度なのかもしれない。当時とは冷戦あたりですが。
ヒルダは能天気な妻で政治などに興味を示さず戦争についても他人事、夫との温度差があります。だが、察しは良い方で、最後のシーンでも自分達がもう死ぬことも悟っていました。
この夫婦の共通点はみな楽観的ということでしょう。まあなんとかなるさで過ごしていくわけです。
この映画はシンプルながらも複数のメッセージ性があります、まず情報の大切さでしょう。
情報リテラシーの有無でこの夫婦はもっと長生きできた可能性があるわけで。
政府のパンフレットに愚直なまでに従うのですが、そのパンフレット内に矛盾した部分があるのですが、それに気づかなかったり、原爆の爆風で家がめちゃくちゃになり、当然、テレビ、ラジオ等は使えなくなり、情報が遮断されます。
しかし夫婦は、新聞屋が来るだろうと、被曝した家の中で待つわけです。
原爆投下後から数日後に夫婦の容体は悪化していきます。頭痛や眩暈などの初期症状。
しかし、それが放射能のものだとは思いもしません。パンフレットに書いてないから仕方ない。キャラクターが被曝によって見た目が変化していくのはちょっとホラー。この辺がまあトラウマだの鬱になるだのいうのでしょう。でもそこまでグロくはない。はだしのゲンとかの方がきつい。東海村の臨界事故のやつはもう見たくもない。
夫婦は放射能が目に見えないということも理解していません。
なので普通に日光浴します。そしたら雨が降ってきて、水が確保できるとバケツを用意し、雨水を溜めるのですが、当然汚染水、しかし汚染という概念を理解していないのでそのまま飲もうとします。妻はそれを嫌がり沸かして飲みますが、沸かしたところで変わりません。
夫婦以外の登場人物はほぼ出てきません。息子も電話越しの会話だけです。
原爆投下前に息子のロンに電話し、息子に核シェルターを作るよう説得するのですがロンはまともに取り合わず、「死ぬ時はみんな一緒さ」と言う。実際そうなったけど。ロンの生死は不明ですが。
まとめ
無知な老夫婦は家で衰弱していく。しかし、考えてみるとこれでよかったのではないだろうか。
地上は完全に焦土の地獄と化し、片田舎でバスがなければ街にもいけない。
あの夫婦に正しい知識、理解があったところで寿命が精々1週間伸びれば良い方ではないか。
逃げた先に楽園などありはしない。世紀末の大地をただ歩き、野犬などに食い殺されて終わりだろう。
それならば、家の中で夫婦ともに寄り添い大人しく死ぬのが幸せかもしれない。
救援を待ってもこない。そもそも救援すら来れない状況下。
原爆投下で家が半壊し、窓は地獄の光景でも彼らは依然と変わらぬような生活を送ろうとする。それでいいのではないだろうか。