この本は映画の哲学的なことを記している。映画史に詳しくないと読むのに疲れる。
映画の発明がもたらした最大のものは、世界に展がる未知の事物を人々の眼に供したことではなく、彼らに＜見る＞ことの術を教育したことにある
映画の根底にあるのは、いま、この場において同時に他所にありたいという欲望である。映画と香水との奇妙な類縁関係。他所の純粋な暗示。いつも満たされず、薄い皮膜のように宙に舞い、物質であるとともに物質の否定であるもの。異国趣味。
多くの人は毎回映画館で異なったフィルムを見ているにもかかわらず、そこに常に同一のものを見ている。すなわち物語という名のもとに秩序付けられた運動だけを見ている。彼らが自覚しないまま受け入れているのは、テクストとしてのフィルムが単一の存在であるという考えだ。
こうした不幸な回路から抜け出し、より自由なレクチュールに到達するにはどうすればよいのか
同じフィルムを何回も何回も見る。映像にできるだけ接近して同一化を果たすためではなく、むしろフィルムとの距離を保ち、その距離を愛するために。
映画を静止させてしまう。物語の消滅。残されたフォトグラムを前に、別の有りえないフィルムを夢想する。
