アーサー・L・ウォーカーがケイトの事務所へ向かうためにマンハッタンのナイン・ストリート駅から地下鉄に乗り、席に腰を掛けたところだった。車両内には乗客はそれほど乗っていなく、この時間帯には珍しく空いている。座った後新聞を広げる。見出しには「連続殺人事件。変死体相次ぐ。」キンタマを潰された死体が毎日見つかっており、ナッツクラッカーと呼ばれる殺人鬼が世間を騒がせている。物騒な世の中だと思った。新聞を綴じ、目を休ませようとしたら、少し経ってからアーサーはある違和感を感じていた。寒気だ。誰かに見られているような視線を感じる。一体なんだ。隣の車両に目を遣ると、この違和感の正体がわかった。
車両間を分かつ貫通扉の窓からは一人の男しか見えなかった。黒いレインコートを着ており、フードもかぶっているため顔が見えない。
そして何よりも電車からはみ出たデカすぎるキンタマ。間違いない。この外見的特徴から俺はこの男が「殺し屋」だと特定した。
俺が子供のころ学校で話題になっていた都市伝説を思い出した。その内容は人を殺すとキンタマがデカくなるというものだった。所詮、子供が考えたちんけな話だ。そんな話を信じる奴なんていなかった。月日は流れ進級し、くだらない話で盛り上がってた日々は忘れ、自分の進路のために夜遅くまで塾に通ってた。その塾の帰り、田舎町だったので街灯の明かりと星夜の月光だけが頼りだった帰り道、俺は殺人現場に出くわしてしまった。赤いドレス(それが血だったかどうかは思い出せない)を着た女性が叫ぶ暇もなく、首を絞められそのままポキッと首の骨を折られた。片腕で持ち上げ素手で首を折ったその怪力、俺はただ茫然として立ち尽くし見ることしかできない。殺人者の姿は暗くてよく見えなかったが、下半身に付いている"あるもの"が異様に巨大だったのだ。殺人者はこちらを振り返った。目が合った。蛇に睨まれた蛙のように俺は恐怖で動けなかった。祈ることもできずただ死を待つしかないのか。キンタマをばねのように飛んで姿を消した。
もちろんこのことは警察に話した。けど信じてもらえなかった。一種のパニック症状による幻覚だと扱われたのだ。俺は毎日キンタマの恐怖におびえながら暮らした。キンタマの悪夢は毎日見るし、神経衰弱は日々続いていき、周りからも孤立していった。絶望の淵に立った俺を救ったのはいとこのケイトだった。キンタマデカ男のことも信じてくれたし俺の心の支えとなった。今俺は彼女の事務所で掃除屋として働いている。
俺はあの暗い日に出くわしてしまった殺人鬼と10年後こうして再開してしまった。
唯一の目撃者である俺を殺しに来たのだろうか?10年も経って?
この場から離れるために俺はすぐさま次の駅に降り、改札を抜け広場にあった公衆電話でケイトに電話した。prrrrrr。。。ケイトは電話に出ない。
続く。。。